第30章 幸せを握りしめてるの
2人と別れ、紫苑は流魂街に向かった
夕焼けが綺麗な日だった
幸いにも虚はすぐに片付き、念のため見回りもした
特に異常は無さそうだし、帰ろ
そして瞬歩で隊舎へと向かう
途中、瀞霊廷の北を通った
「そういえばここ…」
ふと、降り立った
そこは瀞霊廷の北、西園寺家跡地だった
お墓は別の場所にたてたから、あの一件以来来ていなかった
大きな木の根本に腰をかけ、家のあった場所を見つめる
焼け野原になっていたところには草花が芽吹いて、夕方の涼しい風が頬をかすめると共に、過去の記憶が鮮明に思い出される
お父様、お母様と笑いあった日々
琴乃や工藤さん、市松さん、東雲さんと過ごした日々
家はなくなってしまったけど、たくさんの思い出が頬を濡らす
紫苑は地面に縫われたように、その場から動けなくなっていた
そういえば喜助さんに初めて会ったのも此処だった
死にかけてたからぼんやりとしか覚えていないけど
喜助さん……会いたい
帰らなきゃ……
もう大分日が落ちてきた
体が重い
思い出に取り付かれて、離してくれない
…─
「遅いっス」
ひよ里サンが、紫苑は流魂街に任務に行ったけど、もうすぐ帰ってくると思う、と言われてから待つこと3時間…
定時はとっくに過ぎている
本当はすぐにでも迎えに行きたかったけど、ちょこちょこ入ってくる仕事の相手をしながら待っていたら、気づいたらもうこんな時間だった
「心配になってきた…」
喜助の胸がザワッと音をたてる
そこにひよ里がやってきた
「喜助ー紫苑帰ってきたか?」
「まだっス」
「そんな難しい任務とちゃうし、なんかあったんやろか…」
「やっぱり迎えに行ってきます」
そこに仕事を終えた平子がやってくる
「喜助ーひよ里ー今日どうや?」
「それどころじゃないんス」
そう言うと喜助は挨拶も早々に、平子の前を走り去って行った
「どこ行ったんや?あいつ」
残されたひよ里に質問する
「紫苑の帰りが遅いから迎えに行くって言うとったで」
「心配性やなー、紫苑退院してから随分と過保護になったんとちゃう?」