第30章 幸せを握りしめてるの
第30章 幸せを握りしめてるの
5月─
暑くも寒くもなく
随分と過ごしやすい日が続いていた
「西園寺さん、1ヶ月よく頑張りましたね」
「卯ノ花隊長、勇音さん、お世話になりました」
長かった入院生活もようやく退院の許可がおりた
胃炎もほとんど落ち着いて、変わらない環境に私の心も安定していった
貧血はもちろんこれからも薬を飲まなければいけないし
喘息だって、良くなるわけではないけれど入院していたことによって、ストレスがかかることが減って症状はしばらく出ていない
そのおかげで体に負担がかからないから、随分と楽になった
「お迎え来てくれるんですか?」
「はい、お昼くらいになると思いますけど」
「なんだか西園寺さんが退院すると思うと寂しくなりますね」
「時々遊びにきますね、勇音さん!」
2人が居なくなった部屋で、私は荷物の整理を始めた
嬉しい反面、少し寂しくもある
でも今日から喜助さんと、みんなとたくさん一緒にいられる
一ヶ月前、桜が咲いていたこの景色は色取り取りの薔薇が咲き始めていた
数日前、東園寺さんが挨拶に来た
今までの謝罪と、二番隊に正式に異動になったという報告
詳しいことは聞かなかった
東園寺さんも、なんだか色々吹っ切れたような顔をしていたから
「いたいた。ったく退院の日だってのになんで病室に居ないんスか」
「喜助さん!なんで?早かったね」
「紫苑の為に急いで終わらせてきました」
結局休みは取れず、半休になったと言っていたのに
「ありがとうっ!」
ニッコリ笑う紫苑が可愛いくて、未だに頬が熱くなるのはどうしてくれるんスか
「退院おめでとう。よく頑張りましたね」
相変わらず場所人目に関わらず抱き締めてくれる
「喜助さんと一緒に居たかったから頑張ったよ」
「またそんな可愛いことを」
ヘヘッと頬を赤らめながら笑う紫苑
「さ、帰りますよ」
自然と差し出される左手に、自然と右手を差し出した
また喜助さんの隣を歩ける
それがこんなに嬉しくて、幸せなんて、入院してなかったら気づけなかったかもしれない
無意識に握る力が強くなる
「ん?」
「……」
返事は無いのに、顔を赤くしている紫苑の顔を覗き込む