第4章 恋人はいますか?
「面倒…」
「そもそも恋人にしたいと思えるような人に出会えなくて」
浦原隊長が恋人にしたいと思う人は、どういう人なんだろう
「って言ったんスけどね、今…生まれて初めて、気になってる人はいます」
紫苑の心は今度はその一言で、ドクンと波を打った
「え、だ、誰ですか?」
「それは…」
紫苑はゴクンと唾を飲み込んだ
「まだ秘密です」
モヤモヤするような、安心したような…よく分からない気持ちが渦巻く
「紫苑サンは?恋人とかいないんですか?」
「いないです。私、恋したことがないんです…」
恋という感情がイマイチ分からなかった
家族や親友への愛情とはやはり違うのだろうか
「でも、なんか一緒に居ると調子狂って、その人の言葉に一喜一憂して…そんな人は、居ます」
言って、自分で後悔した
まだ数回しか会ったことのない人に、自分は一体何を話しているんだろう…
ましてや自隊の隊長に…
「それが恋なんスかね」
「………え?」
「いや、ボクも恋したことないんで良く分からないっスけどね」
恋?
これが?
「ちなみに誰っスか?」
「それは…」
恋
その言葉が、頭の中を目まぐるしく何度もまわる
「秘密です…」
「えー教えてくださいよー」
紫苑はなにも言わずに、首を横にふるふると振る
「琴乃サンなら知ってるかな」
「だ、ダメですそれは!!」
やっぱり琴乃サンは知ってるんだ~と後ろからでもわかるくらい、浦原隊長はニヤニヤしてる気がする
「もぅ…浦原隊長いじわる…」
隊長におぶってもらえる機会なんて、もう二度とこないかもしれない…からいいかな…
紫苑は喜助の背中にもう一度自分の頭を預ける
程よい揺れ、暖かい背中、紫苑は再び眠気に誘われた
なんて気持ちいいんだろう…夢だったりして
「…紫苑サン?」
急に口を閉ざした紫苑
後ろからはスヤスヤと先程までは聞こえなかった寝息が聞こえる