第29章 あの人は、精神安定剤だから
思っていた反応と違った紫苑に、琴乃はシュンと下を向く
「こんなことして……卯ノ花隊長に怒られても知らないんだから……っ」
言葉を最後まで言い切れずに涙が溢れてくる
「みんな紫苑が大好きなんスよ」
喜助さんの優しい手が私の頭を包む
「やっぱり泣き虫だなぁ、紫苑は」
「嬉し泣きだもん…」
桜を持ってきちゃうのはびっくりしたけど、この日のお花見を私はきっと忘れない…
「紫苑…」
「平子隊長…」
いつの間にか隣には罰の悪そうな顔をした平子隊長が立っていた
「こないだはスマンかった…」
「私も、泣いたりしてすみません…」
「体調はどうや?」
「時々胃が痛みますけど」
「はよ良くなるとええな」
平子は紫苑の頭にポンと手を置いて優しく撫でる
「はいはい、あんまりイチャイチャしないでくださいねー」
割って入るように喜助が二人の間に立ち塞がる
「イチャイチャしとらんわ!」
「紫苑も嫌ならやめてって言うんスよ?」
「別に嫌じゃ…「嫌だってー平子サン」
「いや、今嫌じゃない言うとったやろ!?」
「ふふっ」
二人のやりとりを見てると自然と笑みがこぼれた
「紫苑…」
「笑った…」
「へ?そんなに変かな…」
ぎゅうっと喜助さんが抱きついてくる
「喜助さん、苦しっ…」
「だって笑った紫苑かーわいーんスもん…」
「みんな見てるから、離して?」
「嫌っス」
やっぱり紫苑の笑顔が一番好きだ
「コォら喜助!イチャイチャしとんのはどっちや!」
喜助が離れた後、紫苑はクイクイっと琴乃を呼んだ
「なんか良いことあった?」
「な、なんで?」
「なんか、嬉しそうだから」
「琴乃、ちょォ聞きたいんやけど…」
ひよ里が小さい声で琴乃に声をかける
「もしかして真子のこと…」
「やっ、だめー!ひよ里さん!」
慌てる琴乃の表情から、ひよ里も察しがついた
「ふーん…」
「ひよ里さんニヤニヤしてる…」
「オススメはせんけど、まァ頑張り」
赤くなった頬がなかなか戻らない琴乃だった