第29章 あの人は、精神安定剤だから
隊舎に戻ると酒の匂いが立ち込めて、出来上がってる人も何人かいる
「喜助!手伝えや!」
「ひよ里サン?」
そこには桜の木に登って枝を切り落としているひよ里サンがいた
「何してるんスか?」
「何って桜切っとるんや。紫苑とこ持ってくねん」
「え?」
「ひよ里さーん、お弁当できましたよ!琴乃ちゃん特製お花見弁当!」
「琴乃サン、それって」
「紫苑と一緒に食べようと思って…どうせあの子寂しがってるでしょ?」
まるで自分のことのように嬉しかった
本物の桜を持っていくのはさすがに思い付かなかったけど…
「よし、行くでぇ!…あ、ついでに五番隊にも寄るか」
「もしかして、平子サンっスか?」
「紫苑怒って泣かせたこと、大分後悔してるみたいやから…」
そして3人は五番隊に向かった
「なんや揃いも揃って…」
「いいから付いてきィ」
ひよ里に引っ張られながらブツクサ文句を言う平子
「どこ行くんや?」
「すぐやで」
嫌な予感がしながらも、後ろのほうを歩く琴乃が目に入った平子は、ひよ里の手を振り払った
さりげなく琴乃の横に並ぶと、琴乃が驚いた顔をした
「よォ、今日は元気そうやんけ」
「そ、そうですか?」
素直に…素直に…
紫苑に言われた言葉を言い聞かせる
「あの…」
「んァ?」
「また、明日から…お弁当作ってもいいですか?」
恐る恐る見上げた
「大歓迎やで」
安心した琴乃から、自然と笑みがこぼれた
コイツこんな可愛いかったか…
「何か言いました?」
「え…あ、いやなんも…」
そして平子の嫌な予感は当たり、着いた先は四番隊
アホか、気まずいっちゅーねん…
「紫苑ー!桜持ってきたでぇ」
「お弁当も作ってきたよー、お花見しよー!」
あいた口が塞がらなかった
「みんな……何してるの……?」
喜助さんに至っては桜…?本物?
「隊舎に戻ったらひよ里サンと琴乃サンが準備してたんスよ」
桜を飾り終えた喜助さんが教えてくれた
「何考えてるの…こんなことして……」
「紫苑喜んでくれるかと思ったんだけど…」