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With me

第29章 あの人は、精神安定剤だから



「多分お散歩に出てるんですね。今日はちょっと長いかなぁ。もうすぐお食事ですし、探して来てもらえると助かるんですけど…」


苦笑いしながら喜助にお願いをすると、二つ返事で了承された


さてと、どこ行ってるんスかねぇ

霊圧を探れば簡単っスけど、たまには探してみましょうかね

正直隊のお花見なんて、興味がなかった

というより、紫苑がいないから…というほうが正しいかもしれない

あ、見つけた

角を曲がった先、中庭に面した窓から桜を見下ろす紫苑がいた


「……」


声を掛けようとして、思わず息を飲んだ

桜を見下ろす紫苑の瞳が、ひどく悲しそうな瞳をしていたから

泣くわけでもなく、ため息をつくわけでもなく、ただ寂しそうに桜を見る彼女に、胸が締め付けられるようだった


"お花見行きたい!"


そう言って約束をした

そんな小さな約束も、叶えてあげることができない自分の無力さを痛感した


「っ……」


突如紫苑はお腹を押さえてうずくまる


「紫苑!大丈夫?」


咄嗟に駆け寄る


「喜助さん…」


来てくれたんだ…


「誰か呼んでこようか?」

「部屋に薬あるから…」


紫苑を部屋に連れていき、指示された薬を取って、飲ませる

まだ少し痛がってる…

変わってあげられたらいいのに


「よく痛むんスか?」

「ん、時々…」


あえて花見の話はしなかった

紫苑も、してこなかった


「喜助さん、ちゃんとご飯食べてる?」

「んーまぁそれなりに。紫苑こそ、入院してからむしろまた痩せたんじゃないっスか?」

「うん…」


元々細かった紫苑が、なんだかまた少しほっそりした気がする

少し力を入れたら折れてしまいそうな白い細い腕


「食べてないんスか?」

「食べると気持ち悪くなるから…」

「胃炎のせい…?」

「多分…」


心配だ

だからといって、無理に食べろとも言えない

食べなくていい、とも言えない

紫苑のために何かしてあげたいんスけど…


「紫苑、ちょっとだけ待っててくれる?」

「あ、うん…?」


紫苑のためにできること…


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