第29章 あの人は、精神安定剤だから
「…喜助さんが卯ノ花隊長に頭下げたんだってね」
「知ってたんスか…」
恥ずかしそうに頬をポリポリとかく喜助さんがかわいい
「私、十二番隊が大好きだよ」
「紫苑…」
「琴乃が居て、ひよ里さんが居て、阿近が居て、マユリさんが居て…喜助さんがいる。みんな私なんかに優しくしてくれて、現世に行けなくたって、誰も私を悪く言ったりしない…十二番隊に来れて本当に良かった」
「ほんと、良い子なんスから…」
喜助さんの大きな手で頭を撫でられると、心があったかくなる
「じゃあまた来るね」
「うん、気をつけて帰ってね」
廊下で喜助さんが見えなくなるまで見送る
その間に何回も振り返って手を振ってくれる
その度にキュンてして、寂しくなる
早く明日になればいいのに…
…─
1日2回、散歩に出る
散歩といっても、四番隊から出てはいけないから、隊舎内をひたすら歩く
四番隊のこの棟の中庭にも満開の桜が咲いた
私の部屋からは桜が見えないから、毎日の散歩コースにしてる
喜助さんとのお花見行けそうにないな…
今日はちょっと憂鬱…
桜より少し高い位置の窓から桜を見下ろす
夕暮れ時なのに、いつ見たってそれは眩しくて悔しいくらいに綺麗だった
終業を告げる鐘がなる
今頃十二番隊のみんなはお花見してるんだろうなぁ
そう思うと凄く寂しくなって、心がどんどん下の方に引き込まれていく
喜助さんも今日は来ないかな…
…─
今日は十二番隊全体でのお花見
鐘が鳴ると同時に酒や団子やとウキウキしながら準備を始める隊員たち
喜助は仕事を終えるとテキパキと身支度を整える
「喜助、紫苑とこ行くんか?もう始まんで?」
「先に始めててください、すぐ戻ります」
足早に四番隊に向かう
階段を上がっていつもの病室を覗くと、「喜助さん!」と笑顔で出迎えてくれる可愛い紫苑が
「いない…」
少し部屋を見渡してみるけど、何の気配も感じない
「わ、お疲れ様です。浦原隊長」
「虎徹サン、おつかれっス。紫苑は?」
紫苑の部屋の薬箱を補充しながら勇音は質問に答える