第29章 あの人は、精神安定剤だから
コンコン─
紫苑の病室をノックする音が聞こえる
返事をすると、勇音さんだった
「西園寺さん、お身体如何ですか?」
「うん、悪くないよ。どうしたの?」
「あの、これは提案なんですけど…あ、もし西園寺さんが気が乗らなかったら、全然断っていただいていいんですけど…」
紫苑は頭にはてなを浮かべる
「もしよかったら、この入院期間を使って回道を学んでみませんか?」
「回道を?」
「はい、西園寺さんは霊術院での回道の成績がトップだったんですよね」
確かに回道は得意だった
私は琴乃に比べて斬術がイマイチだったから、何か琴乃より勝りたいと思って、鬼道を中心に頑張っていたから
喜助さんに出会って十二番隊に誘われてなかったら、きっと四番隊に入隊希望を出していただろう
「そんなこと知ってるんだね」
「西園寺さんは元々四番隊に来てもらうはずだったんですよ」
「え、そうなの?」
そんな話聞いたことなかった
「でもそれを知った浦原隊長が、卯ノ花隊長に頭下げたらしいですよ」
「え?喜助さんが?」
頭を下げた?
私の為に?
急に顔が熱を発するのを感じた
「どうしても西園寺さんが欲しかったんですね。って、全部卯ノ花隊長から聞いた話ですけど…」
恥ずかしくなって俯く私を、勇音さんは微笑みながら見つめる
「卯ノ花隊長が西園寺さんの回道の腕を見込んで、それを鍛えないのはもったいないって…入院中の気分転換にもなるかなと思うんですけど…」
「うん、やりたい」
「本当ですか?」
「ただ入院してるのも、暇だしね」
「ただ、じゃないですよ。体の為に入院してるんですから!分かってます?」
「はいはい、ごめんね」
「もう…気が向いた時だけでもいいので、声かけてくださいね」
次の日から、勇音さんとの回道の鍛練が始まった
時々卯ノ花隊長自ら教えてくれて、元々得意だったこともあり、するすると覚えていった
「紫苑、回道の調子はどうっスか?」
「喜助さん!うん、いい感じだよ」
「紫苑は、十二番隊に来て後悔してないっスか?」
喜助さんが急に寂しげに言う