第29章 あの人は、精神安定剤だから
「そしたら、諦めますから…」
涙声でお願いされてもなんとも思わない
けど、ボクは話しを聞くことにした
「場所変えましょうか」
隊首室で2人きりになるのは、もう止そう
紫苑も嫌がるだろうし
東園寺さんと外に出た
ひんやりとした空気
言葉を交わさずに廊下を歩いた
「この辺で良いっスか」
「はい…」
「それで、何の話しっスか」
目尻を下げて不安そうに震える唇
弱々しく口を開けた
「私、浦原隊長が好きです…」
「…はい」
「錆面で私を助けてくれてから、ずっと貴方に会いたくて頑張ってきました」
涙を堪えているんだろう
「だけどやっと出会えた貴方には、素敵な恋人が居て…」
瞳が徐々に潤んでいく
「私があの時死神だったら、とかあの時もっと西園寺さんみたいに素敵な女性だったら…浦原隊長は私に振り向いてくれたのかなって思ったら…」
時々深呼吸をする
「悔しくて…西園寺さんに嫌なことしちゃって、すみませんでした…」
喜助は答えない
「でももう諦めます…」
「……東園寺サン」
「好き…大好きです…っ…でも、私の気持ちが迷惑になるほうが…浦原隊長に嫌われるほうが…嫌だからっ」
耐えきれずに溢れだした涙が、彼女の頬を流れ落ちる
こぼれないように必死に拭っても、止めどなく溢れて
「西園寺さんに、敵いっこなかった…」
喜助はそっと、ハンカチを差し出した
「浦原隊長…」
「キツイこと言ってすみませんでした…」
「いいんですっ」
さすがにちょっと言いすぎたか…
罪悪感を感じた
「ボクなんかを、好きになってくれてありがとう」
少し落ち着いていた涙が、また溢れだした
「西園寺さんのこと…大切にしてあげてください」
「もちろんっス」
すると凛音はもう一度しっかり涙を拭いて、無理矢理笑顔を作った
「私、十二番隊を出ていきます」
「え?」
「こんな理由で異動できますか?私、もう此処に居ないほうが良いと思いますし、此処に居ると浦原隊長に甘えてしまいそうで…」