第28章 喜助さん…ごめんなさい
「はぁーーーーー」
双極の丘の下にある地下空間
だだっ広く、殺風景な景色
人一人が寝転がれるくらいの大きな岩に喜助は背中を預けて、人工的な空を描いた天井を見上げていた
「なんじゃおったのか、喜助。辛気臭いのぅ」
「……一人にしてくれませんか、夜一サン」
喜助は目線も向けずに答える
「紫苑とケンカでもしたのか」
「……」
「図星のようじゃの」
"喜助さんなんか大嫌……っいッ"
紫苑の声が何度も頭でリピートする
「嫌いって言われちゃいました」
「それは可哀想にのぅ」
「ボクもう立ち直れないっス…」
猫の姿に変化した夜一は岩場の傍の温泉へと身を沈める
「嫌われるようなことをしたのか」
「ん、まぁ誤解なんスけどね…」
「なら弁明してやれば良いではないか」
何秒かの沈黙の後喜助は再び息を吐く
「紫苑の泣き顔見たくないんス」
紫苑の泣き顔は心臓に悪い
その瞳から、一粒流れるだけで心臓が止まりそうになる
「お主が笑顔にしてやれば良いじゃろ」
「無理っスよ。紫苑はボクのこと嫌いなんスよ?」
"喜助さんなんか大嫌……っいッ"
「それが本心だとでも思うておるのか?女子は何時でも嘘つきな生き物じゃ。その嘘を許してやるのが男じゃないのかのぅ」
「相変わらずその辺の男より男前っスね」
「照れるじゃろ」
紫苑は今も、泣いているだろうか…
琴乃サンがついているから、大丈夫だとは思うけど
「夜一サン、ひとつお願いがあるんスけど…」
…─
勇音が来て落ち着いた紫苑は、それでもその目からまだ涙が流れていた
「紫苑」
「止まらないの、全然。変だよね」
「紫苑、聞いて」
「聞きたくない」
ふぃと外のほうを向く
その顔を無理やり自分の方に向かせる
「なにするのっ」
「ちゃんと聞いて!」
琴乃の目は凄く真剣な目をしていた
あぁ、私はいつの間にか色々なものから目を背けていた
琴乃からも、喜助さんからも、東園寺さんからも…
「隊長はね…」
そして聞いたのは、にわかには信じがたいことだった