第28章 喜助さん…ごめんなさい
「飲んでないんですか?紫苑」
「紫苑、貧血やったんか?なら朝から討伐に呼び出して悪いことしたなァ。辛かったやろ…」
喜助の頭に嫌な予感がよぎる
暑くもないのに額に、背中に汗が垂れる気がする
「薬飲もうとしたら切らしてたって…しかも朝一討伐行かされて紫苑フラフラだったんですけど…」
なのにどこ行ったんだか…
"喜助さん…今日お休みしてもいい?"
朝の紫苑の言葉がよみがえる
あの時は急いでいて大して気にかけなかったけど、本当は相当辛かったのかもしれない
「失礼します、浦原隊長」
「アナタは…」
さっき紫苑が抱きついていた…彼
「なんの用っスか…」
紫苑は?
無意識に手に取っていた筆に力が入り、バキっと音をたてて折れる
その行動に彼は冷や汗をかきつつも続ける
「あの西園寺さんなんですけど、貧血で倒れてしまって…僕が四番隊に連れていきました」
「倒れた…って、もしかしてアナタに抱きついていたのは…」
「抱きついたというか…西園寺さんが倒れそうだったので、咄嗟に受け止めたんですけど…すみません」
喜助の逆鱗にでも触れると思ったのか、彼はいそいそと隊主室を後にした
「行かんでえぇのか?喜助」
行きたい
今すぐにでも、行きたい
だけど紫苑は、ボクを信じてくれるだろうか…
ボクは紫苑を…苦しめてばかりだ…
「…隊長が行かないなら私が行く」
「でも琴乃、行くとこあるって…」
「そんなことより紫苑が心配ですから!」
…─
「隊長やっぱり来たんですね。遅いですよもぅ」
目の前に、ベッドに横になる紫苑
この姿を見るのはもう何度目だろう
「こんなに顔色悪くして…よく頑張りましたね」
返事のない紫苑の手を握る
まるで冷たくて、離すと力なくクタッと落ちてしまいそう
「貧血と、神経性の胃炎だそうです」
「胃炎?」
「精神的ストレスからくるものらしいです」
ストレス…
何が原因か、そんなのは分かりきっていた
「こんなになるまで、ボクは紫苑を苦しめていたんスね…」