第28章 喜助さん…ごめんなさい
「すみません、我慢できなくて…」
人差し指を下唇にあてた凛音は、満足そうに頬を染めて目を細めた
紫苑が走り去ったほうを眺めながら
「ボクには紫苑が居るんス…だから、困ります」
慌てて外に出る
角を曲がってすぐ目に飛び込んできたのは
「紫苑っ…」
紫苑が男に抱きついている光景だった
いつもならすぐにでも引き剥がして、紫苑を抱き締めているのに
紫苑に限って男に…?
そんなはずがないことは、少し考えればわかったのに
なのに…
さっきの東園寺サンとのキスを見られたという後ろめたさと、目の前の光景のショックでボクは背を向けてしまった
そんなはずない…
ならなんで紫苑は彼に抱きついていた?
平子サンはともかく、十二番隊の隊員ですら未だにビクビクしているのに
なんだか色々気が抜ける…
彼女はさすがに部屋を出たか…
隊首室に籠ると先ほど東園寺サンが入れてくれたお茶が目に入る
ガシャンー!!
「何荒れとんや喜助」
様子を見に来たひよ里
「ひよ里サン…」
「湯飲みは割れとるし、茶菓子は落ちとるし…」
「スミマセン」
頭を抱えたままの喜助
「紫苑と何かあったんか?」
「色々ありすぎて疲れたっス」
珍しく弱音を吐く喜助に、ひよ里はかける言葉がなかった
コンコン─
「隊長ー?紫苑います?」
ノックしたものの返事も聞かずに入ってきたのは琴乃
「…いないっス」
「えー仮眠室にもいないし、休んでなって言ったのに」
琴乃は少し考えて
「あの、私この後行くところあるんで、これ渡しといてください」
そう言って喜助に小さな小包を渡した
「これって…」
「貧血の薬ですよ。さっき私が代わりにもらってきたんですよ」