第26章 気づいたら、体が、顔が勝手に…

平子隊長にコソッと耳打ちするように話しかけた喜助さんの声は聞こえなかった

キョトンとしてる私の頭をもう一度くしゃっと撫でると五番隊を出ていった

喜助さん行っちゃった…


｢そない残念そうな顔すんなや…｣

｢あ、すみませんっ。えっと、何か、お手伝いしますか？｣

｢えーって、休んどき｣


へ？と間抜けな声を出すと平子隊長が近づいてきて、ヒョイっと抱き上げられる


｢え、ちょ平子隊長っ｣


軽…

紫苑ちゃんと食ってんのか？


隊首机の脇のソファに寝かされる


｢えーから黙っとけ｣


ち、近い…っ

平子隊長の長い金糸のような髪がサラサラと垂れてくる

喜助さんとはまた違ったひんやりとした大きな手が、私の額に触れる


｢ん、熱はあらへんな｣

｢ね、熱？｣


喜助さんごめんなさい…

ちょっとドキっとしちゃった


｢えーから寝とき。疲れとるんやろ？｣

｢へ？別に疲れてなんか…｣

｢喜助が心配しとったで｣

｢え、喜助さんが？｣


あからさまに嬉しそうな顔すんなや…


｢席官になってからちょっと頑張りすぎやて。夜もあんま寝とらんらしいから、休ませてやってくれやて｣

｢寝てないって、夜も大して帰ってこないくせになんで分かるのかな…｣

｢そら目の下のクマとかなぁ｣


えぇっ、クマできてます？と紫苑は目元を擦る


｢あぁ見えて紫苑のことよー見とるで｣


ぽっ

あ、また音鳴った


｢まったく、入る隙あらへんわホンマに｣

｢…そうだといいんですけど…｣

｢ん？｣


クッションを抱き締めて膝を立てて顔を埋める紫苑の目は、遠いところを見ていた


きっと今頃またあの子は喜助さんにアピールしているんだろう

喜助さんにその気がなくても、やっぱり2人が同じ空間に居て同じ時間を共有しているのは良い気はしない


｢あの、隊長！西園寺さんが来てるって聞いたんですけど！｣


ノックもなしにバーンッと音をたてて開かれた隊首室


｢ノックぐらいせぇ｣

｢あ、すみません平子隊長｣


謝罪も早々に彼はカツカツと紫苑に近づく

嫌な予感がした紫苑の体が強ばる

ガシッと両手で手を捕まれ紫苑の体がビクッとなる