第24章 私の喜助さんに触らないで
「ん……きすけ…さん」
きゅんと胸が鳴る
寝言で自分の名前を呼ばれるだけで、こうも嬉しくなるのは久しぶりに会ったからか
優しく頭を撫でると、布団に寝ている紫苑は身を捩る
研究室を出てパソコンの部屋を通った時、阿近サンと琴乃サンがコソコソと何かを調べていた
声をかけると琴乃サンは慌てて、紫苑が仮眠室で休んでいることを教えてくれた
2人が何をしているか気にはなったけど、それよりも紫苑に会いたかった
「ん……」
「おはよ、紫苑」
薄目を開けて焦点を合わせているんだろう
しばらく無言だった紫苑は、目を少しだけ大きく開けて、体を起こして抱きついてきた
「喜助さん…っ」
会いたかった、と紫苑は更に腕に力をこめる
「おかえり、紫苑」
あぁ、やっぱり紫苑が一番しっくりくる
抱き締めた体
匂い
声
全てがボクを満たしていく
「体調悪いの?」
「ちょっと頭痛かっただけ…なのに琴乃ったら大げさなんだから」
いつもならこの辺で離れるのに、今日は離れようとしない
「何か、あったんスか?」
「大したことじゃ…」
再び瞼が重くなってくる紫苑
ウトウトしてる…
「寝なさい、もう少し」
「…でも」
その数秒後、紫苑はまた寝息をたてていた
…私の喜助さんに…触らない…で
「え?……寝言…?」
紫苑の寝言が気になりつつも、喜助はパソコン部屋の2人の元へ向かった
…─
「写真てこれか…」
さすが阿近
チビだけど、こういうことをやらせると天才的にうまい
壊れた伝令神機から、写真のデータを取り出せたみたい
あんまりこの写真を流出させたくはなかったけど仕方ない
「そう…それで、この写真の送信元が使い捨てのやつっぽかったんだけど…」
画面に夢中になってた私達は背後に近づく影に気がつかなかった
「なんスか、その写真」
ギクッと腰が音をたてた琴乃は、恐る恐る後ろを振り返った