第22章 ちょっと心配性なんですかね
「なんスか、その可愛い反応は?」
「夜一さんが…」
「夜一サンが?」
「喜助さんは覚えていないみたいだけど、喜助さんの初恋の人に良く似てるから、私が初恋みたいたものだって…」
向こうを向いた紫苑の顔は帰ってこない
けど、どんな顔をしているのか手に取るようにわかる
「そっスね。夜一サンの言う初恋は覚えていないっスから。ボクが好きだと思ったのは、紫苑が初めてっスよ」
「そ、そういうことをさらっと言わないでくださいっ」
「紫苑もボクが初恋でショ?」
カァーッと赤くなる頬を隠して紫苑は早足で歩き始めた
喜助はクスクスと笑いながら後ろをついていく
そうこうしているうちに、部屋につき、紫苑はすぐにシャワーを浴びた
浴室を出ると手拭いを持った喜助さんが待っていた
「?」
キョトンと首を傾げる彼女が可愛い
「拭いてあげようと思って」
「え、ありがと」
喜助さんの広げた足の間にちょこんと座ると、髪を優しくワサワサと拭いてくる
「こういうの、好きな子ができたらしてみたかったんスよ」
「えー色んな女の人にやってたんじゃないの?」
「したことないっスよ。面倒臭いっスもん」
私のは面倒臭くないのか…と聞こうと思ったけど、多分返事は分かってるから、敢えて聞かなかった
技術開発局局長の部屋には手で持てる大きさの、ボタンを押すと温風が出てくる機械があった
これがなかなか便利
暖かい温風に当てられて髪を触られているとなんだかウトウトしてくるような…してこないような…
「髪…伸びたね」
言った瞬間後悔した
紫苑は好きで髪を短くしたわけではない
もしかしたら今の一言で、嫌な事を思い出させてしまったかもしれない…
「喜助さんはどっちが好き?」
「へ?」
想像していなかった返事に抜けた声が出る
「長いのと、短いの」
「紫苑ならどっちでも…」
小さな安堵のため息をついた紫苑は耳を澄ませば聞こえないくらいの声で、そう言うと思った、と呟いた
「紫苑、眠い?」