第20章 キミが欲しい
紫苑も食べよ、と私に綺麗なフォークを差し出して2人で食べ始めた
美味しい美味しいと言いながらたくさん食べてくれる
そんな喜助さんをいつの間にかしばらくの間、じっと見つめていた
「ん?なんスか?」
「嬉しいなぁと思って」
こんな風にお誕生日をお祝いできて、私の作ったケーキを食べてくれて、何より一緒にいられる…
「紫苑、クリームついてる」
「え、どこ」
頬杖をついていた紫苑がパッと顎から手を離す
ペロリ
口のすぐ横を生ぬるい感触がなぞる
「き、喜助さんっ」
ニヤニヤと口元が緩んでいる
もぅ…と頬を膨らませる私を面白そうに見ている
「ところで喜助さん、狼ってなんのこと?」
「え、」
「あれ、さっき言ってなかったっけ?」
漏れてたんスか…あれ
「紫苑、あの時の気持ちに、変わりはない?」
「へ?あの時って…」
紫苑は頭を巡らせる
と、すぐに思い当たることがあった
"いいですよ"
紫苑の顔がどんどん赤くなっていく
喜助さんを見ると真剣な顔をして私を見ている
「変わってないよ……っ」
俯きながら話す紫苑の耳元で
「狼はね…」
低い声で
「今夜たっぷり、教えてあげるね」
囁く
興奮か恐怖か、背中をゾクゾクッと何かが走る
それからの喜助さんは終始ご機嫌で、それはそれでいいことなんだけど、やっぱり夜のことが頭から離れない自分がなんだか凄くいやらしく感じる
旅館には娯楽施設などが充実しているらしく、そこで1日ゆっくりしようと、早めに向かった
「喜助さん!お庭がついてる!」
部屋に入ると正面にはその部屋専用の小さな庭があった
雪が積もり小さな銀世界が広がっている
「綺麗っスね」
「喜助さん、お庭で遊んでもいい?」
「え、いいっスけど…」
やった!と荷ほどきも程々に外へ飛び出すと、紫苑はしゃがみこんだ
子供っぽいところもまた可愛い、なんて思って彼女の様子を見に伺う
「紫苑?」
寒さに怖じ気ついたのかとも思ったが、どうやら違ったようだ