第18章 ボクの前では我慢しないで
「っ……ひっ……っ……」
紫苑が泣いていた
誰も来ない使われなくなった古い資料室
喜助は紫苑を後ろから抱き締めた
「やっ、喜助さん…みないで…」
泣かないって決めた
泣くときは1人でって、決めた
強くなりたかった
「ボクのいないところで泣かないで…」
「…っ」
「慰めてあげられないじゃないっスか…」
紫苑を抱き締める腕に力を強める
「言ったでしょ?ボクの前では我慢しないでって」
「だってこんな私っ…」
「好きだよ…」
「嘘、嘘よ…たった二日会えないだけで、酔いつぶれるまで飲んで、任務なのに夜一さんや他の女の子にヤキモチやいて…こんな私好きなわけない…夜一さんのことだって…ほんとは大好きなのに…嫌いになっちゃいそう…でっ」
喜助は紫苑をグッと振り向かすと言葉を遮るように、その口を塞ぐようにキスをした
「それは全部…ボクのことが好きだからでしょ?」
「っ…」
「ボクね、今紫苑が泣いてるけど、嬉しいの…」
「なっ、私は本気で悩んで…」
「ヤキモチやいてくれて嬉しい…寂しがってくれて嬉しい…紫苑から好きが伝わってくるから」
嬉しい…なんて言われると思わなかった
だって普通、こんな女は面倒臭いでしょう?
「ボクも会えなくて寂しかった…」
「喜助さんも寂しかった?」
「任務なんか放り出して帰りたかったっス。それに、帰ってきて付き添ってる平子サンにも嫉妬した」
「え?」
「こんなボク面倒臭いでしょ?」
喜助さんが嫉妬?
「だって喜助さんはいつだって余裕があって、私はいつだって余裕なんかなくって…」
「ボクだって余裕なんかないっスよ。紫苑のことだけは。ほら、今だってこんなにドキドキしてる…」
喜助は自分の胸に紫苑の頭を引き寄せる
耳をあてると速度の早い鼓動が紫苑の脳内に響き渡る
「喜助さん、ドキドキ…してるの?」
「紫苑といるときはいつも…ね」
「嬉しい…」
紫苑は耳をあてたままギュッと喜助に抱きつく