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With me

第16章 喜助さんに…見せないで!



「傘貸して」


奪われるように手を離れた傘は、自分でさしていたときより少し高い位置で、また雨を凌いだ


やめてください

とも言えない

だけど、傘を諦めて走っていくのも、書類が濡れてしまう

だけど、こんな状況

喜助さんが知ったら…


「肩濡れるよ?もっとこっちおいで」

「あ、あの!」


紫苑の肩を抱き寄せる手を、肩をすくめて逃れた


「ははっ、意外と照れ屋なんだね。それとも…嫌だった?」

「あ、えっと…」


嫌…と言えない自分が憎い

気分を悪くしちゃうかな、とか

そんなこと考えて…


「あ、ちょっと止まって。顔にゴミついてる」

「ありがとうございます…」


カシャ


ん?気のせいかな…何か音が…


「そういえば西園寺さんて、浦原隊長と付き合ってるんだよね?」

「え?…あ、はい」


知って…たんだ

なんだか少し、びっくりした


「やめといたほうが良いと思うけどなぁ」

「え?」

「浦原隊長って女の子に関して良い噂聞かないし…」

「そんなこと…」

「じゃあ俺ここで。傘ありがと」


傘を紫苑に手渡して、リョウは走り去った


浦原隊長がたくさんの女の人と関係を持っていたのは知っている

だけどそれは過去のことで、今はきっと、きっと私だけを見てくれていると信じてる

なんだか心にモヤが残ったまま、紫苑は仕事を再開した








…─









「琴乃、喜助さん知ってる?」


手鏡を手に真剣な表情をしている琴乃

なんでも目に睫毛が入ったとかで、格闘している


「隊長?相変わらずだよ」

「そっか…」


相変わらず、というのは、相変わらず研究室に籠っているということだろう

きっかけがあると、とことん追究する

そんな人

きっかけがいつあるかなんて分からない


「元気ないじゃん?」

「…あのね、聞いてくれる?」


本当は喜助さんに会いたかった

会って安心したかったし、先輩のことも話したかった

今会えないのは分かる

だけどなんだか、もうこのモヤを吐き出したくて…

琴乃に吐き出した

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