第16章 喜助さんに…見せないで!
「私、なんでこんな隠すようなことしてんだろ…」
何も悪いことしてないのに
シャワー室を出ると、備品の補充に来た琴乃と出会った
「あれ紫苑珍しいね、どしたの?」
「あ、いやちょっと汗かいちゃって」
「ふーん…秋なのに?」
「うん…」
「本当は?」
紫苑は少し考えて、まわりに誰も居ないことを確認し、口を開きはじめた
…─
「あれ、シャワー浴びたんスか?」
ギクッと音が鳴った気がした
シャワーで匂いを流せたことと、琴乃に話したことで満足した私は、喜助さんへの答えを考えるのを忘れてしまっていた
「えっと…ちょっと、汗をかいてしまって」
「へぇ…」
「け、研究落ち着きました?」
紫苑は急いで話題を変えた
「いや、またすぐ戻るんスけど…」
喜助は顎に手を置きながら、紫苑を眺めた
「何か…隠してないっスか?」
「え…」
「いや、無かったらいいんスけど」
そして悲しそうな顔をして
「…隠し事は、やめてくださいね」
心臓に悪い
ドクンと胸が鳴った
私が嫌がらせを受けていたことや、喘息を隠していたことで、喜助さんにはその都度心配させて、辛い思いをさせた
やっぱり言うべきなんだろうか…
でも忙しそう…
「ちょっと顔色悪いっスね…ちゃんと休むんスよ?じゃあボク戻りますね」
久しぶりに会えたのに、恋人らしい会話をする暇もなく、一瞬で終わってしまった
…次、喜助さんの時間がある時に言おう
紫苑は少し肩を落として執務室に戻った
…─
今日は朝から雨…
こんな日の書類配りは本当に憂鬱
傘で手は塞がるし、書類はしっとりとしてしまうし
早く終わらせて戻ろ
「西園寺さん!」
この声は…
「先輩…」
雨に濡れながら、リョウが駆けてくる
「先輩はいーって言ったのに。それよりさ、ちょっと入れてよ」
言い終わる前に、私の返事も待たず傘に入り込むリョウ
「弱いからいけると思ったんだけどさ、急に強くなってきて」
どうしよう…
ひとつ傘の下、触れるか触れないかの距離