第1章 この子どこかで…
翌日 夕刻─
ベッドで横になっている紫苑は、遠くから聞こえるこの隊舎に似つかわしくない音を耳にする
バタバタバタバタッ─
「紫苑!」
「琴乃、ここ救護詰所だからもう少し静かに…」
紫苑の言葉も一切聞かずに、琴乃は紫苑に抱きつき胸に顔を埋めてくる
「紫苑、よかった…本当に」
「…心配かけてごめんね」
「紫苑が目を覚まさなかったら…私っ」
「もう…泣かないの」
琴乃の目からは涙が溢れていた
顔は少し赤くなっている
「ごめん…取り乱して。いつ頃退院できそう?」
「明日にはできるかなかな。今日1日経過観察」
「ほんと?よかった!ちゃんと大人しくしてるんだよ!」
うんと声が届いたかわからないくらいの返事で、紫苑は何か考えていた
「琴乃」
「なぁに?」
「退院したら、工藤さんのお墓をたてようと思うの」
「え?」
琴乃は紫苑から、工藤の名前が出てきたことに驚きを隠せない
「だって、工藤さんも…家族でしょ?」
優しく微笑む紫苑が女神のように見えた
なんて言ったら紫苑はそんなわけないと謙遜するだろう
「いいの?」
紫苑は当たり前とばかりに首をたてにふる
「骨もないから、形だけだけど…」
「ありがとうっ…紫苑」
自分の気持ちを知ってか知らずか、それとも元々西園寺家の人々を全員家族と呼んでいた紫苑だからなのか
落ち着いた涙腺がまたゆるんできた
「また泣くんだからー」
「泣き虫紫苑に言われたくないよ!」
2人は思わず吹き出して、久しぶりに笑った
その様子を部屋の外で、喜助が静かに微笑ましく聞いていた
翌日─
「今日退院なんスね」
「浦原隊長!お世話になりました」
「ボクはなにもしてないっスよ~」
退院の準備をしていると浦原隊長が顔を出してくれた
きっと忙しいのに、入院中は何度か様子を見に来てくれていたみたい