第7章 思い出の日曜日
「な、なに…?」
そういえば、行きの新幹線でさりげなくキスをされた。このシチュエーションではそれを思い出し つい目を泳がせる。ここはまだ地元であるしバカップル同然であろうシーンを万が一知り合いに見られたら。そんな事を気にしてみる。
「ホントそっくりだね」
「え?」
「サチコに。あと弟も」
美結の顔に一瞬ではてなが浮かぶ、怪訝そうに言った。
「ちょっと待って。なんで母さんの事名前で呼んでるの」
「おばさんとかお母さんて呼ばれると歳を感じるから名前で呼んでもいいよって言ってたから」
「ったく、母さんはいつの間に…」
「ミユの事 根はお人好しな優しい子だって言ってた」
「微妙な褒め言葉じゃな…」
イルミはひとり、納得した様子を見せていた。
「ああいう環境下でサチコみたいな親に育てられると 呑気だけど一部では変に計算高い性格に育つのかな」
「もう今更だから否定はしないけど。とにかく母さんの事名前で呼ぶのはやめてよ…」
もしもあの母が同世代であったなら、色々なシーンで勝てる気がしない。溜息をつきながらそんな事を思った。
話題が終ればイルミはスッと前を向く。
今度は美結の方からイルミの横顔を見つめた。
「…イルミの家族はどんな人達?」
「全員殺し屋」
「そうじゃなくて。ご両親とか弟君とかやっぱりイルミに似てるの?」
「どうだろう 身内の事はあんまり客観的には見られないから。オレは母親似ではあるけど」
横顔を眺めながら想像を巡らせる。
やたら黒目の大きい表情の乏しい男の子が並んで食卓につき、皆が淡々とした話し方で会話をしているとすれば その光景は若干滑稽であるし ついクスクスと笑みが漏れた。
「…私も会ってみたいなー イルミの家族に」
「無理だよ」
正論を返す様は相変わらず、不可能なのはわかっている。
美結は視線をそらせ胸中を隠すよう口元に笑みを貼り付けた。横目に、腕を組むイルミの姿が入った。
「ミユはまずウチに入る資格がない。恨み買うこともなさそうだし外で会う機会があるとも考えにくいし」
「…そうなの?…」
「うん。まあ こんな話する意味ないか」
確かに想像でしかない例え話は無意味とも言える、でも今はそれが嬉しいのも事実。早々話を終わらせようとするイルミに笑顔で言った。