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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第7章 思い出の日曜日


昼食後、美結は母の隣で洗いあがりの皿を拭いていた。他愛ない会話の途中で 母は当然とも言える提案を投げてきた。

「ほんとにもう帰るの?折角来たんじゃし泊まって行けばええのに」

「元々日帰りの予定じゃし明日は仕事じゃし」

「休んだらええのに。1日くらいバチあたらんよ」

「…私はよくても。…………イルミは仕事あるし」

「…そっか。残念じゃねえ」

少しだけ気が沈む。可能であるならそうしたい所だが 時間がそれを許さない。
それ以上はそこに触れない母は 違う質問を投げてきた。

「好きなん?」

「なにが?」

「イル君」

「な…違うよ!友達だってば!」

「美結がうちに男の子連れてくるん初めてじゃけ 何か特別なんかなーと思って」

「別に…深い意味はなくて…」

言葉の通り、感情の意味では深い理由はないはずだ。
この世界にとどまる時間にタイムリミットのある人間だから 無理矢理とも言える行動力を発揮する気にもなった、ただそれだけ。
頭でそう確認する、美結の表情が少し曇る。

横目に入る母はふふっと笑う、そして明るい声で言う。

「女は愛嬌」

「はい?」

「笑う門には福来たる」

「何…急に…」

「ママ思うんよ、女の武器は涙よりも笑顔じゃろって」

これは母なりの励ましか何かなのだろうか。

そういえば 悲しい寂しいといった負の感情を表には出さず、楽しくいい思い出で締めくくりをと 自分自身に勝手な約束をした事を思い出した。

母に目を向ければ にっこり笑顔を浮かべている。

「パパも昔はママの笑顔は世界一ってよく褒めてくれたんよ」

「…あっそう」

「大丈夫。美結はママにそっくりじゃし世界二番目にはなれるけぇ」

「…もう!娘の前でノロケとかやめてよ!」

美結は呆れた声でそう返し、声色を落とした。

「……父さんは元気?」

「元気じゃよ。今度はちゃんとパパのおる時に帰ってきんさいな」

「……うん」

「イル君もまた連れて」

「………………うん。……出来たら、ね」

母のアドバイスはごもっともであるが 考えないようにすればするほど、どうしても笑顔が乾いてしまう思いだった。
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