第7章 思い出の日曜日
いよいよ最終日だというのにマイペース丸出しのイルミには少し呆れる。
ただ、何やら物騒な世界に暮らしているらしい彼が無防備なまでに隣で眠ってくれるのはある意味嬉しい事にも思える。
ほんのり伝わる体温と微かな寝息を感じているとこれはこれで悪くないのかも、と口元が緩んだ。
バッグから充電満タンのスマホを取り出す。昨日一切触っていなかったせいで幾つかLINEの未読やメールが残っていた。
美結はそれを気まぐれに返信し始めた。
そういえば。
実家の母に「これから帰るね」とたった一言メールを送る。
数分後、母からの返信が届いた。
RE:
_____________
りようかいo(≧▽≦)o
いつの間に顔文字入力なんて高度テクニックを覚えたのか、それよりもまず小文字入力を覚えるのが先ではないのか。
機械に疎い母に心でツッコミを入れ、動き出した新幹線の窓の外にぽつりと目を向けた。
◆
あれから数時間。
寝ると言ったら1度も起きないイルミの横で美結はそわそわ落ち着きをなくしていた。
次はいよいよ広島駅だ。口からぽろりと独り言がこぼれた。
「…ヤバイ、緊張してきた…」
隣のイルミが頭を動かす。聞こえていたのか すぐに大きく目を開く。
「もう着くの?」
「…うん…」
緊張の理由は主に二つ。
一つは今回の帰省が久しぶりであること。
通常 夏休み冬休みの年二回は帰るようにはしているのだが、今年の正月は 年末年始にかけてサークルのスノボイベントに誘われ帰省をしていなかった。故に実家に顔を出すのは実質上一年近くぶりなのだ。
そしてもう一つは、言わずもがなイルミも一緒である事。
母にはその後の返信で「友達も一緒だけど時間ないから長居はしない」とだけ連絡をいれたのみ。今更ながらに無難で違和感を抱かれない帰省理由を探し出した。