第7章 思い出の日曜日
「……ねぇ イルミ」
「なに?」
「…間接キスじゃなくて…昨日みたいに直接したいな」
「いいよ」
それはあまりに一瞬だった。
「…………え?!っ」
もちろん冗談のつもりでの進言であった。
しかし刹那に軽く触れるだけのキスをされたのだから驚くのも無理はない。
咄嗟に身体を引きイルミを見れば平然としたまま再びペットボトルに口をつけている。冷えたお茶のせいか、唇に冷たく残る温度がやけにリアルだった。
「な…何するの!」
「直接?」
「こんな所で……っ」
「したいって言ったから」
「言ったけど…こ、このタイミングじゃないよ!他にも人いるのに!」
「この席は今いる乗客からは死角に入る。誰にも見えてないよ」
「そういうことじゃないよ……。」
美結は苦々しい顔をする、にわかに顔が熱を持つ。
確かに外国では軽いキスは挨拶同然ではあろう、イルミの国では主流なのかと問いたくなる思いだった。
イルミはケロリとしたままだ。
「何をそんなに驚いてるの?」
「驚くよ…外だし…」
「だから見えてないよ。それにミユとは何度か既にしてるよね」
「…日本人はそういうの気にする人種なんだよ…」
返されたペットボトルには口をつけぬまま、素早く蓋を閉めた。
一つ目の駅に到着する。人が乗り込んでくる様子を見ていると隣からイルミの声がする。
「あとどれくらいで着くの?」
「そうだな…あと四時間くらい」
意外だったのかイルミの顔がこちらに向いた。
「そこまで遠いとは聞いてないけど」
「ん? そうだっけ?」
人差し指を顎に添え、わざとらしく首を傾げてみせる。
イルミはスッと瞳を閉じた。
「寝る。」
「え…?なんで」
「寝れる時に寝ておかないと」
「夜寝れるでしょ 折角だしお喋りとか…しようよ!」
「明日帰ったらおそらく親父から説教と何らかの罰則、溜まった仕事の処理でしばらくは休む間もないのは目に見えるからね」
「えー…イルミ~…」
寝ると言ったらあっという間に寝ている様子。思い切り残念そうに顔を覗き込んでも全くの無意味であった。
眠っている姿は家でもはっきり見た事はなかったがこんな形でまじまじ拝見する事になるとはまさに想定外。
ひとり小さな溜息をついた後、イルミの肩に頭を軽く預けてみる。