第2章 期待と不安の火曜日
美結はイルミの服に目を向けた。
昨日は格好なんて見る余裕もなかったが よくよく見ればそれはどうなのかと問いたいレベルの個性的な服だ。材質は不明であるしデザイン然りだが 貴金属のような飾りもよくわからない。風呂上がりに着るにはハードで重そうというのが第一印象だ。
「……服それしかないの?」
「さすがに着替えまで持ち歩かないしね」
それもその通り。仕方ないと言えばそうだ。
そういえばイルミは滞在期間は一週間と言っていた、つまり丸々一週間もこの方向性が迷子の服を着続けることになる。
美結の中に嫌な考えが起こった。
とかく汗かきで体臭がきつそうなタイプには見えないが、さすがにずっと同じ服では満員電車の中年男性に似た臭いが出てきてもおかしくないのでは、と想像が働いた。乙女の部屋の中でそんな事態は言語道断である。美結はイルミにちょっと待てと一声かけ寝室にあるクローゼットへ向かった。美結の物では当然使えないがただひとつ イルミでも着れるのではないかと頭の片隅に覚えのある服を漁った。
「………あ、あった!」
取り出したのはあるイベントの新年会に呼ばれた時、ビンゴゲームで当てたアニメキャラがプリントされる上下セットのグレーのスエットだった。フロント部分にでかでかと映る 口の小さい水色ショートヘアの赤目美少女は、確か何とかレイと言う名前であったような なかったような。ネットオークションで売ってしまおうと思っていたものであるし ここで役立てばちょうどいい。それを胸に抱きリビングに戻る。
「これあげる。新品だしこれ着たら?」
スエットの上着を広げて自身にあてて見せれば 長さは短いワンピース丈程度、ユニセックス物でサイズはフリーであるし男性でも着れるはず。イルミは胸元に付いているキャラクターにじっと視線をぶつけていた。
「この世界にもこういうのあるんだ」
「……?スエット?エバンゲリオン?」
「こういうのミルキが好きそう」
「ミルキー?」
「弟。そう言えば最近見ないな…あ、サイズないのかな」
弟の名がミルキーとは随分可愛らしいではないか。少しだけ心が和んだ。
イルミにスエットを渡す。美結は仕事用のOL服を揃えてシャワーを浴びるため洗面所へ向かい イルミに「着替えておいてね」と一言かけた。