第2章 期待と不安の火曜日
翌朝の火曜日。
結局はいつの間にか寝てしまったらしい美結は まだ薄暗い明け方に目を覚ました。ぼんやりする頭の片隅で どこか夢のように昨日の奇怪な来訪者の事を思い出した。
最終的にはスヤスヤ寝れてしまった自分にはやや呆れたが、まずは無事に一夜を明かせたようだ。
今日ももちろん仕事へ行かなければならない。昨日は入浴もしていないしシャワーくらいは軽く浴びたいところだ。そう思い恐る恐るリビングへ足を運ぶと、部屋の隅にある洗面所の一角からイルミがのそりと顔を出してくる。
「シャワー借りたよ」
「え?…ああ、はい、どうぞ…」
自分が使おうと思っていた矢先、知らぬ男に勝手に使われたとなると少し複雑で生返事をした。自然と目が合ってしまう、美結の目先はイルミの顔から肩、上半身にまで下りていった。
長い髪は濡れており上半身は裸のまま。肩にかけてある見覚えあるタオルも 大きなオトコと対比すると小さく見えるものだ、なんて感想を持った。
今現在 特定の彼氏はいない美結だが事の成り行きで男性を泊める場合もある。さすがに下は着ているしそこまで珍しい光景でもない。
朝だから思考が鈍いのか、いきなり裸体で登場された驚きよりも 痩せて見えなくもなかったが脱げば立派に筋肉質じゃないかとぼんやり思った。着痩せとはこういう事を言うのだろうか、美結の分析を他所に イルミは首を傾げている。
「なに?」
「いや、別に…」
「見慣れてるんじゃないの?」
「…そんな事ないよ」
尻軽女、そう言われた気がした。
多少 男遊びをしているとは思うが、幼く見える外見からか回りからはあまりそうは見られない筈なのだが。当てずっぽうなのか 感が鋭いのかは知らないが いきなりこんな事を言われるのは当然面白くはない。
美結は大きな溜息をつき、眉を下げイルミを見上げた。男性には上目遣いとアヒル口、これはもはや美結の癖のようなものである。
「えっと…ごめん、何さんだっけ?あの、覚えてない訳じゃないんだけどホラ、間違ってると申し訳ないし…」
「イルミ=ゾルディック」
「イルミなんとかさんね、さすがに裸でウロウロはやめてくれる?服は着てよ」
「今着るところ」
リビングをたった数歩で移動するイルミは服が置き去りにされたソファまで移動する。