第2章 期待と不安の火曜日
脱衣場で部屋着を脱ぎ 風呂場へ入る。まだ前使用者の蒸気が残る浴室は正直不快であるが致し方無い。美結は大きく目を見開いた。
「…………っ嘘…………」
100円均一で購入したピンク色の丸い洗濯ピンチに下着がぶら下がっているではないか。すっかりさっぱり忘れていた。
しかもかかっているのは先週土曜日のデート時「万が一」に備えて仕込んだ勝負下着のひとつ。ショーツのバックに小さな蝶のモチーフが付いている点が可愛くて一目惚れをしたお気に入りの1着、細やかな黒レースに少しのラメがかかり デザインもそこそこ大胆、大人っぽくも遊び心がある。当然それなりの値段もした。
女性の一人暮らしである以上 下着は必ず室内干しにしている、それを見事に忘れていた。
先程 軽い女扱いをされたのはこれを見られたせいだったのだろうか。美結は苦々しく顔を歪める。
何故訳のわからぬ不審者にここ1番で着用したいセクシーランジェリーを晒さねばならないのか。ブラジャーのカップサイズまで見られていたとなれば顔から火が出そうであるし 泣きたい気持ちになる。
早々シャワーを済ませメイクを施す、髪をゆる巻きにしてファイバーワックスを揉み込めば 雑誌の中から飛び出して来たような可愛い系OLの完成だ。パールのピアスをはめ、リビングに戻った。
嫌でもイルミと目が合う。
美結は下唇を弱く噛み 上目遣いをする。
「………………見た?」
「なにを?」
「………………お風呂場の」
「ああ ミユの下着?見たと言うより視界に入った」
「見てんじゃん思いっきり!!!」
「どけておいた方がよかった?触られるのも嫌かと思って」
「そりゃ…ヤだけど……」
「でもなんていうか、アレだよね」
「なに……アレって……」
「いや。いいよ 何でもない」
「………………………っ。」
大方見当はつく。
顔に似合わず攻め過ぎな下着、見た目より派手に遊んでいそう、だいたいそんな所だろう。
イルミはそのまま何事も無かったかのようにふいと顔をそらしてしまう。美結はグロスを乗せた唇を歪める。恥ずかしさで顔は耳まで真っ赤だろう。