第7章 思い出の日曜日
アパートの最寄り駅から一番近い、新幹線の止まる駅に降り立った。
ホームの売店でペットボトルのお茶と気持ち程度に土産の菓子折りを購入し、スマホで経路を再確認をしていると目的の新幹線が到着する。
今日は祝日が合わさる連休でもなんでもない普通の週末、時間も早めのせいか 幸いな事に普通席でも余裕で座れる程度にしか人はいなかった。
新幹線が動き出すと美結はすぐに持参したおにぎりを取り出す。それを隣に座るイルミに差し出した。
「はい朝ごはん。中身は食べてのお楽しみー」
「中身って?何か入ってるの?」
イルミはいきなり半分におにぎりを割る、そして見事に中身を言い当ててくれた。中は冷蔵庫にあった梅干し、1度お好み焼きに使ったが それをきちんと覚えていてくれたみたいだ。
「焼いちゃうとあんまりわからないけどそのままだと結構酸っぱいでしょ 梅干し」
「確かに。斬新な味」
ただ、割られたおにぎりを見ているといかがなものかと つい食べ方を注意したくなる。
「…イルミおにぎりを割って食べるなんてなんか変」
「そう?この方が食べやすいかなって」
「普通はかじって食べるんだよ」
「口に入って飲み込めば同じだよね」
イルミは構わずパンでも食べるように 食べやすいサイズにちぎりながらおにぎりを食べる。むしろよく上手に細かく出来るものだと感心を覚えてしまう。
「…でもやっぱり変、その食べ方」
「気にしないでいいよ」
ある意味女の子のような、子供のような。その食べ方が少しだけ面白く見えてきた。
食事を終えると先程買ったペットボトルのお茶の蓋をあける。それを何口か飲んだ後、隣のイルミに含みのある笑顔を向けた。
「お茶飲む?」
「うん」
「間接キスだけどいい?」
「好きだね。そういうの」
意味深に言ってはみるものの、イルミが全くもって動じないのは想定内だ。手元から静かにペットボトルを奪い 躊躇なくそれを口に持ってゆくイルミの横顔を見つめた。
体型の割に顔が小さいからか、輪郭が細やかであるせいか。
こうしてみると逞しいようでイルミはどこか女性的でもある。
水分を飲み干す喉の動きは何とも言えぬ色香を放つ。
ついつい、視線を吸われてしまった。