第7章 思い出の日曜日
日帰りで行く場所ではない事は身をもって一度経験した、逆に言えば日帰りで行けない場所ではない。
時間はともかくお金については先日イルミがどこからか稼いできた謎の収入がある。元々はイルミの物であるしそれを使って旅行感覚で遠出をするのも悪くない。
広島帰省はイルミ本人の希望でもあるし、実家の母にも「たまには帰れ」と先日の電話で言われたばかりである。
急すぎるがいいタイミングとも言える。
予定を決めてしまえば都合よくメリットばかりが見えた。
洗面所で一日ぶりにメイクを施しそんな事を考える。
支度を終える頃にはご飯が炊き上がる。美結はすぐにキッチンへ向かった。
買出しも行っていないので残念ながらおかずはないが、熱いご飯を広げて冷まし 小ぶりのおにぎりを4個用意した。
ラップを使いご飯を丸めながらリビングにいるイルミに声を掛けた。
「ねー イルミー」
「なに?」
「海苔はパリパリ派?しなしな派?」
「のりって?」
「んーとね 海藻!ご飯のまわりに巻くの、触感がいいのと ぺっとり普通のとどっちがいい?」
「触感がいい方」
「ま、家で作るおにぎりだから普通のしか出来ないんだけどねー」
「じゃあなんで聞いたの」
それには答えずふふんと1人で笑ってみる。遠足のような気分にもなり くだらないやり取りが楽しかった。
おにぎり作り終え冷蔵庫にあった少しの飴と共にバッグへ入れる。リビングへ戻るといつの間にか着替えを済ませているイルミの背中が目に入る。ちらりと時計を確認してから言った。
「7時半前か……ねっ そろそろ行こっか!」
「え、もう?」
「うん。折角早起きしたし」
「仕事行く時は起きないのに休みの日は早起きって、ミユって変わってるね」
「そう?普通でしょ」
「オレなら仕事の時は絶対に予定以上寝ないし、やる事ない時こそずっと寝てるけどね」
イルミの言い分は一般論だが 人には強制されると抗いたくなる性がある。きっとそれを真面目な性分で是正している、イルミのそんな所も嫌いではなくて ついクスリと笑ってしまった。
美結は充電器につなぎっぱなしだったスマホを手に取った。
外に出れば本日は本当にいい天気で気分も晴れやかだ。
いよいよ最後の1日が始まった。