第6章 風邪をひいた土曜日
しんと静寂が訪れる。テレビが消されたのだと気付いた。
無音の空間をイルミの声が静かに破ってくる。
「ミユさ」
「……なに?」
「セックスしたい?オレと」
あまりにも直球に投げられた質問にはさすがに目を見開く、ぽかりと口が開いてしまった。
「オレのこと恋人同然なんて言って、甘えたりもっと知りたいなんて言って今もこうやって自ら触れてくる。さっきも抵抗しないし、つまりはそういう事だよね?」
「…………」
実際の所はそういう事、だと思う。
ただストレートすぎる言葉で説明されると素直に肯定する気にはなれなくなる。その辺の事情についてはもういい大人ではあるが 女心だってわかって欲しい部分はある。
そもそも、こういう事は雰囲気が答えを出すものだ。
それをどうにか間接的に伝えるべく イルミの腕を離し今度は首筋に両腕を回した。ここまで積極的にサインを送っているのだ、願わくば正しく受け取って欲しい。
イルミの肩が若干落ちる。
耳元に溜息にもとれる微かな息遣いが聞こえた。
「でもさ、さっき もっとオレの事知りたいけどその分離れた後は辛いとも言ったよね。……オレはどうすればいいの?」
美結はゆっくり頭を起こす。
噛み合う視線は高揚を呼ぶし、戸惑いを掻き消してくれる。
イルミの眼光はいつだって痛い程真っ直ぐで こちらの方が目をそらせたくなってしまう。少しだけ目線を下に逃がす。
「……さっき言った通り……イルミの、したいようにして……っ」
「この状況でしたい事なんてひとつだよ」
腕を引かれ、向かい合わせに膝の上に座らされた。日頃見上げてばかりだった顔が直線上に並んだ。
初めて、互いの明確な意思の元、お互いを求め合えている気がした。
「まあ、ミユの事だしどうせ全部わかってて言ってるしやってるんだろうけど」
「………、っ」
「男を手玉に取るのは楽しい?」
「…そんな言い方しないで…っ…イルミがいいしイルミしか欲しくない…」
嫌味な言い方をするイルミに顔を寄せこちらから口を塞ぐ、それとも 頭を引き寄せられて震えそうな唇を奪われる。
どちらが先かはわからなかったが、どちらでもいいと思った。