第6章 風邪をひいた土曜日
「明日で最後だから。ミユには世話になったと思ってるしミユに行きたい所があればそこでもいいし」
美結は少しだけ目を細めた。
明日で最後。言葉にされると重く心に響く思いだった。
「……なるべくイルミの希望には添いたいと思うよ。……最後だし…」
最後という言葉を同じ意味で会話に上げた。こうなることは時間がもたらすただの必然、わかってはいても少し悲観的になってくる。
探していた筈の話題が頭の中から消え去ってしまう。美結は唇を噛み締めた。
「ミユ」
「ん…?」
「こういう時ってどうすればいい?」
イルミの声に顔を上げる。すぐに視線が噛み合った。
「どうすれば、って…?」
「本物じゃなくても今は恋人に近い存在ならさ、こういう時はどうすればいいの?」
「………っ、」
目頭が熱くなる気がした。美結はほんの少しだけ 震える声で答えを返す。
「…イルミの…したいようにすればいいんじゃないかな……っ」
何も言わぬままイルミの手がゆっくり美結に伸びる。
耳にかかる洗いたての髪を絡めるように 指でそれを優しく梳かれた。髪を乾かす時とは全く違うその触れ方は 数日前の夜と同じ、男が女に触れるものだ。
眼差しが熱く見える。こうなる事をどこか望んでいたと気付かされた。