第6章 風邪をひいた土曜日
父と母と、弟と映るもの、そこには家族写真がそっと置いてある。
「そうだよ。私の地元の家族」
イルミは写真立てに片手を伸ばした。
それを手元に引き寄せると真っ直ぐ写真に目を向ける。
「これっていつの写真?」
「私の成人式の時だから……4年前かな」
「みんなミユみたいなあの面白い話し方するの?」
「方言?するするー それは地域性だからしょーがないの」
実家の前で撮られた成人式の日の写真。この頃は弟が反抗期真っ盛りで少し離れた場所にぶっきらぼうな雰囲気を丸出しにして立っている、今ではそれも微笑ましい。
「ミユの服、カルトが着てるのに似てる」
「ああ 着物?成人式だからね。えっとね 二十歳のお祝い」
「ミユとミユの弟そっくりだね」
「私はともかく、ホント女顔でしょー 母さん譲り。弟はそれをめちゃ気にしてるけどね」
家族の話はほんわか心が暖かくなる。
美結自身も故郷を思い出せるし 興味を持ってくれているとすれば嬉しいものがある。
手元の写真をじっと見下ろしながら イルミは美結に質問をぶつけた。
「ミユはなんでここに1人で住んでるの?」
「なんでって?」
「わざわざ家賃払ってまでどうして家族と離れて暮らすの?」
「そう言われると……」
「オレにはよくわからない」
自分の家族を重ねるように写真に目を落とすイルミの頭の中がほんの少しだけ見えた気がした。諭すように本音を話す。
「視野を広げたいのかも。」
「視野?」
「うん。色んな経験して色んな人と出会って、人生一度きりだしやりたい事はやっておいた方がいいし。でも離れてたって家族は家族、大切だし大好きなのは変わらないよ?キルア君だっけ?変な友達作ったり家出したりするの、それも似たようなモンなんじゃないのかなぁ」
わかった風に語った事で 何か反論したそうにイルミは顔を上げる。 美結は笑顔で言葉をつなげ 少しだけ話題を曲げた。
「うちの颯太だってこんな顔してるけど反抗期は大変だったんだよ?父親とはしょっちゅう喧嘩してて私にまで手上げてきたり」
「姉弟喧嘩ね。ミユは本当に弱そうだね」
「……否定はしないケドね」
今となっては懐かしい。自然と優しい笑顔になった。