第6章 風邪をひいた土曜日
だが正直な所、食欲もないしこのタイミングでの濃厚アイスは少し違う。美結は眉を下げてイルミの手元を見つめた。
「……あんまり食欲ない」
「我儘言ってないで何か食べた方がいいんじゃない?」
「……アイスは好きだけど今はちょっと…」
「いいから食べなよ」
「……じゃ、イルミ食べさせてくれる?」
「は?」
「あーんてしてくれたら、…食べる」
「世話が焼けるねミユは」
イルミは小さい溜息まじりに言う。
お願いすれば甘えさせてくれるのだから 話の通り長男気質な部分もあるのだろう。イルミと性格のタイプは違うが美結も長女であるし、勝手に親近感を覚える。
スプーンで運ばれるアイスを口に入れれば その温度は気持ちいい、しかし味としてはやはり甘すぎるし尚更喉が渇く気がした。
「……こんなに甘かったっけ」
「アイスってそんなモノだろ」
「……これね、この世界のちょっといいアイスなの」
「そう」
「イルミも食べなよ。美味しいよ」
「いいよ オレは」
「一緒に食べようよー」
ニコリと笑って見上げてみる。
美結からアイスに視線を移し、スプーンで薄くすくったそれを一口だけ味わうイルミを 満足そうに見つめた。
「美味しい?」
「うん。まぁイケる」
「でしょ?良かった」
スプーンの先をちらりと見てから 美結は意味深な顔をする。
「わーい」
「なに?」
「間接キス」
「そうだね。なんなら直接食べさせてあげようか?」
「え…っ?!」
「冗談。ほら」
イルミは至って真顔で言いながら冷えたスプーンを差し出してくる。それを口で咥えながら 冗談が似合わない男だと改めて思い 少し拗ねた顔をした。
アイスの後、再び薬を水と共に飲んだ。
横になりぼーっとしていると 先程まで眠っていた筈なのにしつこく眠気が襲ってくる。
ここ数日は確かに寝不足、だがそれ以前も飲み会や遊びの誘いにほぼ二つ返事で応じていたし 慢性的に身体に疲労が溜まっていたのかもしれない。生活スタイルを反省していると イルミが寝室にある小さめのドレッサーを指差しながら言った。
「ねえ」
「んー?」
「あれってミユの家族?」