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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第6章 風邪をひいた土曜日


数時間後。

いつの間にか眠っていた。美結はふっと目を開いた。

「……」

あれから他愛ない話を少ししたような気がする、それからしばらくは眠ったと思うが まだ顔は火照るし頭はぼーっとする。静かな部屋の外からは今だに雨の音が聞こえていた。

重い頭を動かしてみればすぐにイルミの黒髪が目に入る。枕の隣につっぷすような格好で 眠っているように見えた。

眠っているのかは定かではないが そんな寝方では息苦しくないのかと冷静に聞きたくなる反面、広がる長い髪が某ホラー映画の井戸から出てくる怨霊のようで不覚にも少し笑えてしまう。

何も言わぬままその様子を見ていると、イルミがゆっくり頭を起こしてくる。


「ミユ起きたの?」

「……うん。よく寝れた」

眠っていたのはそちらもでは、とは言わずにおいた。
ほんの数秒であったが 眠たそうに瞳を細くしている表情が新鮮でついクスリと笑みがこぼれる。

すぐに普段の顔付きに戻ってしまうイルミは、またも美結の額に手を乗せてくる。

「まだ熱高いね。薬効いてないの?」

「……わかんない」

距離が近い。そのままゆっくり額を離れる手を少し名残惜しく感じる。



「……ねぇ……今何時かな?」

「さぁね」

寝室には時計をおいていない。

時間すら気にせず 何をするでもなくぼんやり見つめあっているだけで何故だかとても安心した。

風邪を引いたのも悪くなかったのではないかと、つい不謹慎な事を考えてみる。

イルミは一旦その場を離れた。



「食べたら?これ」

イルミの手にはハーゲンダッツのアイスクリームがあった。
以前 無性に食べたくなり購入したが結局食べずに冷凍庫に入れっぱなしになっていた物だ、その存在すらすっかり忘れていた。

「……よく見つけたね」

「冷凍庫漁ったからぐちゃぐちゃになったと思うけどね」

弟がまだ幼い頃 寝込んだ時は甘い物を欲していたものだと言いながら、イルミはカップアイスの蓋を開ける。
続けて そんな弟を看病した事も懐かしいと話し出す。話のニュアンスから 風邪の看病とは少し違うようにも感じたが 美結にも同じ気遣いをしてくれる事は 嬉しくもありがたくもある。

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