第6章 風邪をひいた土曜日
「まぁそこまで酷そうでもないし。少し休めば治るんじゃない?」
そう言うとイルミはサッとその場を立ち上がる。美結は そのまま寝室を出ようとする後姿を見つめ、何か引き止める口実をと 熱に揺れる頭を働かせる。
小声でイルミを呼び止めた。
「…………イルミ」
「なに」
「………お薬とって?」
「薬?」
「風邪薬」
「そういうの使った方が治りが早いのか。なるほどね」
イルミは何やら納得をした後、薬の場所を聞いてくる。
リビングの収納扉のプラスチックの箱の中だと指示をすればそれを持ってきてくれ、再びベッドの横に腰を下ろした。
薬箱から幾つかの薬を物色するイルミを見ながら それらの殆どは故郷の母が送ってくれたものだと懐かしく思い出していた。
「……風邪薬はその黄色い箱のやつ」
「これね」
「あとお水もちょうだい?冷蔵庫に入ってる」
「水?わかった」
美結は市販の錠剤を二粒取り出し、半分残るミネラルウォーターを口に含んだ。横からはイルミの視線が刺さる。
「………。なに見てるの?」
薬を飲む様子を食い入るよう あまりにもじっと見てくるイルミが気になり ペットボトルを一旦口から離した。風邪に寝込む顔はやはり見られたいものではない。
「どんな味するの?風邪薬」
「え?……んーと、糖衣かかってるからちょっと甘い」
「へぇ」
「飲んだことないんだ?」
「うん」
今ではそれもそこまで驚かない。
ふっと笑い「薬は飲まないにこしたことはない」と言いながら もう一口水を飲み、美結は再びベッドに横になった。
用が済めばイルミはさっと立ち上がる。
美結はそれを見上げながら 縋るような声を出した。一人で寝込む事を想像すれば その存在がありがたいし、こんな時くらいは甘えたくもなってくる。
「……ねぇ イルミ」
「なに」
「……ここにいて?」
「オレがいると休みにくくない?」
「ううん……一緒にいて欲しい」
「子供じゃないんだからさ」
呆れるように言いつつも イルミは枕元に座り込む。
美結はイルミに弱々しい笑顔を向けた。