第6章 風邪をひいた土曜日
イルミはスッと手を引っ込める。
その動きを目で追いながら、美結は罰の悪そうな声を出す。
「……私、風邪なんて殆ど引いた事ないのに」
「弱いね ミユは」
はっきりそう言うイルミを、ますます気まずそうに見つめた。
イルミの言う通りだ。
言いたい事もはっきり言えずに周りに流され生きている様は確かに弱いと思う。それを認める勇気すらなく手の内で転がせる男性を手玉にとった気になり つまらないプライドを守っている。それが災いし昨日のような醜態を晒す事になり、イルミから見ればさぞやバカな女に映っているのだろう。どんどん目元が滲む気がする。
イルミはベッドに片肘を預け 頬杖をつく、さらりと揺れる髪からは同じ香りがする。
「多少寝不足で雨に濡れたくらいで体調崩すなんてさ。自己管理出来ないの?」
「………だって」
「ミユって言い訳多いよね。ダイエットするって言いつつよく食べるし」
「……………………」
「あと都合悪くなるとすぐ黙るよね」
「……そんな事、ない…もん…」
心配して看病をしてくれる流れを想像したのに、イルミは普段の調子で相変わらずの正論をかざしてくる。親にでも説教されている気持ちになってしまう。
美結は頭を動かし じわじわ潤む瞳をイルミに向けた。
「何泣いてるの。熱があるくらいそんなに辛い?」
「…違う…。イルミが、いじめるから…」
「オレが?いつ?」
「…今」
本当の所は嬉し涙。
普段通りの様子のイルミに安堵を感じるし、今までのように普通に話せる事が嬉しかった。気まづい空気を勝手に想像し作っていたのは自分かもしれない、美結は再び布団を目元ギリギリまでかけた。