第6章 風邪をひいた土曜日
イルミは躊躇なく寝室のドアをあけるとベッドの横に腰を下ろす。
真っ直ぐ向けられる視線が気まずく美結は部屋を見渡すフリをし、目をそらした。
5畳半の寝室には大きめのクローゼットがある。服や物もさっとしまえるのでそこまで散らかってはいない。幾つか物が落ちている程度であった。
じっと見下ろしてくるイルミを見ないまま、窓際にポツンと落ちているシュシュに目線を固めていた。
「顔色悪いね。具合悪いの?」
「………」
それは飲み明けな上に寝不足、メイクをしていないせいじゃないかと思う。不細工であろう寝起きの顔など見られたくもない、逃げるように布団を頭の上まですっぽりと深く被った。
「……やっ…、…なにっ…?!…」
イルミは構う事なくがばりと布団を剥いでくる、上半身がヒヤリと外気に晒された。ベッドの上であるし 押し倒されるように見下ろされれば少し警戒しなくもない。
変な想像を他所に、イルミは片手を美結の額の上に乗せてきた。
「ミユ 熱あるね」
「………え」
言われて気づく。
足元がフラフラしたのも頭がクラクラするのも二日酔いではなく発熱のせいだったのかと妙に納得をした。
そこまで健康に気を遣っているタイプではないが 普段体調を崩す事はあまりなく、風邪だという発想すら久しく忘れていた。
「顔色は悪いけど。ま、熱が少し高めなくらいかな」
「…………」
イルミは額に乗せた手をするりと軽く動かした。
部屋に入りたいと言ったのは美結の体調が優れない事を察し、心配してくれたのかと思うとじんわり心に染みるものがある。
ちまちま昨日の事を気にしていた自分が尚更やるせなくなり、目頭が熱くなる思いで イルミを見つめた。
目の前の掌がたまらなく嬉しくなる。