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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第5章 勝負合コンの金曜日


ビニール傘を二人でさしても雨が強ければあまり意味がないのか、元より濡れた身体であるしそもそも傘をさす必要すらなかったのか。そんなどうでもいい事を考えているとあっという間にアパートまで到着する。

イルミはアパートのドアをあける。
それが閉まると同時に、美結はイルミの背中を見上げる。

「…あの…イルミ…」

「余計な事した?」

「え…?」

昨日は恋人同然だと甘い言葉で誘っておきながら 今日は他の男と一緒にいた所を見られている。イルミにすれば面白くないのはわかるし 咎められても仕方ないと思う。

イルミはこちらを振り返らずに 前を向いたままだった。そして、美結には少し予想外の返事を返してきた。

「さっきはミユが嫌がってるように見えたけど、考えてみれば今朝予定があるって言ってたしね。ミユにはミユの世界があるしオレが口を出す事じゃなかったかな」

「…っ、そんな事ない…!」

先程のイルミの行動はヤキモチにしては過度だとは思うが、他人行儀な言い方をされれば 突き放された気持ちになる。

美結は雨に濡れた頭を、イルミの背中に軽く預けた。

「イルミ…ごめん…」

「なにが?」

「…雨降ってたし迎えに来てくれたんだよね?なのにごめん…あんな所見せて。…信じてもらえないかもしれないけど今日は合コンで…あの人はたまたま帰りが同じ方向だったから一緒に帰っただけで…」

「ごうこんて?」

「えっと、男女の飲み会みたいなもんで…友達の誘いで先約だったし…今更断れなくて…」

濡れた前髪からポタリと雫が足元に落ちる。それを見ながら言い訳同然の台詞を口から紡いだ。

そして謝罪の他にもう一つ、言っておきたい言葉を述べる。


「…あと。ありがとう」

「ミユの傘壊したし昨日の約束破ろうとした。礼を言われる事は何もしてないよ」

「…だってもし、イルミが来てくれなかったら…っ」

イルミが来なかったとしたら、あの先の展開くらいは予想出来る。女の力ではどうやったって男には敵わない。



そしてそれよりも、なによりも。
先程の映像が鮮明に脳内を回る。


イルミに対して恐怖を感じた。

元の世界に暮らす姿を見たと思った。

“嘘だと信じたい” それが本心かもしれない。
イルミの背中の服を両手でぎゅっと握り締めた。
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