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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第5章 勝負合コンの金曜日


「ミユ」


心の中で身の上を諦めた時だった。
サァサァいう雨の音に負けないくらいに イルミの声が耳に響く。美結は咄嗟に目を開いた。

その声を受け、男は美結から少しの距離を取る。その間から 声の方を見上げた。 そこにはビニール傘を片手にさしたイルミの姿があった。

男は美結に視線をぶつけてくる。

「……知り合い?」

「……………………ッ」


イルミの登場により、助かったと思うよりも先に心臓がバクバク嫌な音を立てはじめる。

美結の予感はすぐに確信に変わることになる。







「…………………っ、!!」

バキン、と 鼓膜をつくような重い音がした。反射的に 美結は思い切り目を瞑ってしまう。




その後聞こえるのはサァサァという、雨の音だけだった。
何が起きたのか確認する必要があるとは思いつつ、それを見るのが怖い思いだった。


「………、」


それでも、怖々目を開くしかない。
薄く瞳を開けてみれば、いつのまにか前に立つイルミが見える。その黒目は美結を真っ直ぐ見下ろしていた。








「殺そうか?コイツ」

「…………っ」

波打つようにうるさい心臓を落ち着かせるよう、深く呼吸をしながら目の前の光景を少しづつ理解する。


先程の鈍い音、折れて転がった傘には見覚えがあった。それは玄関に置いてある美結のブランド物の傘だ。

驚きに目を見開く男に怪我はないようで、イルミはこれを脅し同然に壁にでも叩きつけたのだろうか。アイスピックのような尖った物を男に向けながら、視線だけはじっと美結を伺っている。

まず、ブランド物のしっかりした作りの傘はそう簡単に折れるものなのかと どこか冷静に考えた。




「…………っ」

イルミを止めなければいけない。わかってはいても中々身体が動かないまま、声が出なかった。
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