第5章 勝負合コンの金曜日
「送ってくれてどうもありがとう。…あのね、実は、…今弟が上京してきてて家にいてさ」
「あ、そうなの?」
「うん…それにそっちもそろそろ終電ヤバいでしょ?」
「俺は別に平気だよ!始発かタクシーでもいいし」
大人しく引いてくれと祈る思いだった。
しばし視線の先で、互いの出方を探り合う。
「……まあ、弟クンがいるなら家はマズイかー “アンタ誰だよ?!”って怒られそうだし」
「あはは、さすがに怒ったりは しないと思うけど…」
「でもやっぱり危ないしさ。途中までは送るよ」
「大丈夫だよ、ホントに!」
「危ないって」
「大丈夫だから!!」
大人の女性として、ここまで頑なでは相手の男性に失礼であるのは承知の上だが今日だけは譲れなかった。男の目元がピクリと面白くなさそうに揺らぐのが見えた。
「わかったよ。」
上から落ちる了承の言葉に心底ホッとする。美結は作り笑顔を浮かべて、男に別れの挨拶を述べた。
「ここまで送ってくれてありがとう。私1人じゃ寝過ごしちゃう所だったし……」
「はは、めっちゃ寝てたしね」
「本当にありがとね。じゃあね」
美結は男に軽く手を振り冷たい雨の中を歩き出した。
「ねぇ いい事思いついた」
後ろから、ふいに腕を掴まれた。振り返ればさっきの男が笑顔で立っている。美結は雨に濡れる前髪の間から、不安そうな瞳をその男に向けた。
「………なに?」
「別に美結ちゃんの家じゃなくてもいいからさ」
「え…?」
「ホテル行こうよ。雨宿り」