第5章 勝負合コンの金曜日
やはり断れなかった。
酒の入った若い男女のカラオケは 盛り上がりの良い明るい曲のオンパレードだ。だが今日は積極的に歌う気分にもなれず 鳴るはずのないスマホを時々確認しては、過ぎ行く時間が惜しくてたまらない思いをする。
薄暗く爆音のする個室内では顔を寄せ合い耳元での会話が基本となる。美結の隣は常に二番手の男が陣取っていた。
気付けば終電間際、結局は二次会まで参加する事になってしまった。
「…ちゃん…美結ちゃん…美結ちゃん、駅 降りなくていいの?」
「………。ごめん 私 寝ちゃった」
耳元で聞こえた小声を受け、美結はゆっくり目を開けた。
運良く座れた美結は 偶然にも同じ方面だと言う今日一番仲良くなった男と帰路についていた。二次会以降はさすがに任意参加である、終電が終わればオールになる可能性が高い訳で美結は当然帰宅組だった。
「ほら 降りよ!」
「………ん………」
瞼がくっつくほどに眠かった。
隣の男に引っ張られるようにアパート最寄駅のホームに降り立った。
ここ数日は夜更かしが続いているし酔った身体に電車の揺れは最高に心地よい。寝るなという方が不可能だと心で自身を正当化し、隣の男に気付かれぬよう欠伸を噛み殺した。
「じゃ 帰ろうかー」
「……あれ?降りる駅まで私と一緒だったっけ?」
「もう遅いし危ないから家まで送るよ」
男は自然と手を繋いでくる。
にこりと笑う爽やかな表情の下に下心が見えた。この状況を招いたのは自分のせいでもあるが、さすがに今夜は都合が悪い。
何事も穏便に事を運びたがる美結は 押しに弱いしはっきり断るのが苦手な性分である。やんわり断りを入れつつ 改札口を出た。
いつの間にか本降りの雨が足元を冷たく濡らしていた。
「雨降ってきちゃったねー 確か今日は曇り予報だったのに。美結ちゃん傘持ってる?」
「…持ってない…」
「やっぱり?はは、俺もないや」
腕時計をちらりと見れば深夜0時半を過ぎていた。美結はきりりと眉を寄せる、このまま着いて来られるわけにはいかない。