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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第5章 勝負合コンの金曜日


18時。30分程度の残業で美結は無理矢理に全ての業務を片付けた。

「お疲れ様でした!」

お手洗い場に直行し早々とメイク直しを終え会社を出た。

雲が低く空気は湿っぽかった。薄暗い空は時間帯のせいだけではない様子、そういえば週末は雨模様であったが今日のうちにも降り出しそうな雰囲気だ。せめて今夜は持ちこたえるよう祈りながら、美結は待ち合わせの駅まで急いだ。

「……………」

途中、無意識にイルミのことを考えた。
知らない世界へ不本意にやって来た人間を一人にするのは可哀想だったかと妙な責任感を感じなくもない。食事はきちんとしただろうか、危ない事はしないという昨日の約束は守っているだろうか、そんな小さな事を気にかけてみる。

「……私が心配するまでもないか」

イルミは常に落ち着いているし自身の生き方みたいなものをはっきり確立させている。
かなりしっかりしているし、元来真面目な性分なんだろう。弟が多くいる長男だという点も頷けるものがある。

でもその割りに家事は苦手で痒いところに手が届かない。けれど手元はそこそこ器用。態度は横柄に感じる時もあるが その反面律儀に恩を返そうとする姿勢もある。

昨晩に初めて見せた姿を思い出してみれば少し頬が熱くなる。動揺も欲情も薄い雰囲気の中で交わしたキスは イルミをれっきとした「男の人」であると 美結に意識させるには十分だった。


そんな事を考えていればすぐに待ち合わせの場所に到着してしまう。そこにはすでに友人達の姿がある、美結は頭を切り替えるべく笑顔で輪の中へ駆け寄った。

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