第5章 勝負合コンの金曜日
支度を終え玄関に向かった。
今朝は普段よりも慌ただしくないせいか イルミが見送り同然に後ろからついてくる。下駄箱からいつもよりヒールが2cm高いパンプスを取り出し、そこへ足の指を滑らせた。
「行ってくるね」
「うん」
「……………。」
「なに?」
じいと見つめる視線に、はたと首を傾げるイルミの様子は とぼけているのかどこまでも純粋な天然であるのか。悔しくも判断が出来なかった。
あまりにも自然のままでいられると 昨晩のキスは夢だったのではないかと本気で思えてくる。
美結は肩にかけた通勤バッグの持ち手を両手で握りながらイルミの表情を伺う。
「あのさ」
「うん」
「昨日、………………………キスしたよね?」
「うん。した」
「………そっか」
当然の如く返事を返された。妙に気まづい変な感じがするのは中途半端に終わってしまったせいなのだろうか。
今日はせっかくの金曜日である、昨日よりもさらに解放的な気分に任せ 目の前の人物と昨日の続きを過ごしたい気持ちにもなってくる。朝っぱらから不純な妄想をしてしまう。
「…………………。」
「行かないの?」
「行く、けど……」
腕組みをしながら ころんと首を曲げるイルミの仕草を目で追った。
奥手なタイプかと思っていたがいざとなれば案外そうでもない、かと言ってガツガツと下心を丸出しにするわけでもない。
イルミとの探り合うようなやり取りはまさに恋愛ゲーム、セーブデータの先が気になって仕方ない。そして、参加する以上はよくて引分け 可能であるなら勝利をしたい。妙なロジックが頭を回っていた。
「………じゃあ 私行くね?」
「うん」
涼しい対応のイルミに後ろ髪を引かれながらもアパートを出る。
気合を入れ直した筈の合コンはすっかり二の次に思えている自分に無理やり喝を入れながら、美結は会社へ向かうしかなかった。