第5章 勝負合コンの金曜日
帰宅時までに充電がなくなると困る、と文句を言いながらも イルミは美結に携帯電話を手渡してくれる。新品同然の傷のないスマートフォンに構わず電源を入れてみた。
「……これイルミの世界の文字?」
「そう」
「記号みたい、象形文字というか」
「オレからすればこの世界の文字の方がよくわからないけど、何種類もあるみたいだし」
イルミは美結の手元を覗き込んでくる。いくつか立ち上がるポップアップを見ながら「仕事の予定が狂った」と溜息混じりに口にしていた。
電話番号を聞き出し 自身のスマホから電話をかけてみた。耳に当てればすぐにコール音が聞こえるではないか。
美結はハッと驚きの顔をする。
「ねぇ……つながるかも!」
「それってさ」
『もしもし、山本ですけど どちらさん?』
「……すみません間違えました!」
美結はすぐに電話を切った。
マグカップに指を掛けるイルミは かすかに顎を上げていた。
「ミユってバカなの?よほど機械に弱いんだね」
「……でも、別にそれで困ってないし」
社内でもパソコン操作やコピー機の紙詰まりにあった時は 眉を下げて男性社員に頼めば笑顔で何とかしてくれる。困っていないというのはどこまでも美結の本心だった。