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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第5章 勝負合コンの金曜日


「イルミー朝ごはん何がいいー?」

着替えを終え冷蔵庫を開けた。
「何でもいい、いらない、あるもの適当でいい」そんな回答がある程度予想出来るので 質問はしても答えを聞く気は全くなかった。

定番のヨーグルトと賞味期限が迫っているウインナーを出す。一人であればやりはしないが フルーツナイフをあえて使い、タコ形に細工をしてみた。

ミニサイズのプライパンからはすぐにじゅうじゅうと芳ばしい香りが立ち上る。その横で濃い目のインスタントコーヒーをマグカップ二つ分用意した。


リビングのテーブル前に座り、マグカップを両手で持ちながら、美結は上目遣いにイルミを見つめた。

「……今日ね、私仕事の後に用事があって帰り遅くなるんだけど」

「珍しいね」

「うん。ちょっとね」

「わかった」

イルミは驚く様子もなくそう言った。

伊織主催の合コンは先約であるし 悪い事をするわけではないのだが、少しの罪悪感を感じるのは昨晩の一件があったからだろうか。
タコウインナーの胴体部分に器用にフォークを刺すイルミの手元を見ながら 美結は少しだけ話題をそらした。

「…せめて連絡を取り合えればいいのにね。何かあった時も安心だし」

「不可能だよ オレの携帯はここでは電波が入らないし」

「ウチには固定電話も引いてないしなぁ…」

イルミはどこからか自分の携帯電話を取り出した。テーブルに置かれるそれを視線だけで見つめてみる。

はっきり言ってよくあるタブレット型のスマートフォンに見える。「比べっこ」と言いながら美結自身のスマホを隣に並べて見れば 画面サイズも厚さも、ほとんど大差ないようだ。
異なるのは、細やかなレース模様のケースに守られる美結のスマホに対し 一切の装飾がないイルミのものがシンプルすぎるという点だけだ。

イルミにある提案を持ちかけてみる。

「……掛けてみてもしかしたら繋がったりしないかな?」

「無理でしょ」

「ダメ元でやってみてもいい?」

「絶対無理だと思うけど」
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