第4章 デートの木曜日
共同生活の中で イルミは1度もこういう遍歴を見せなかったせいだろうか、直に触れ合うと心身共にいい意味での緊張感が増すし 胸からははっきりと高い鼓動が聞こえてくる。
ほんのそっと、それでも確かに触れた唇は音もなく離された。
反射的に閉じた瞳をゆっくり開けば、いつの間にか見慣れた顔がある こんなに近くで見つめ合うのは改めて初めてだ。
嬉しくも 気恥かしくも、達成感もあり 美結は照れ笑いを浮かべる。細めた目元をほころばせ 斜め下に視線をずらせた。
「……キスしちゃったね」
「ダメだった?」
イルミの指はまるでこちらをあやすよう、髪に絡みついてくる。しとやかに首を傾げるイルミの仕草が なんとも言えずに艶っぽい。
今度は美結の番、イルミの頰へ静かに手を滑らせる。
もう片手も添えて 掌でそっと滑らかなイルミの顔を包んでみる。微動だにせずそれに従ってくれる事が イルミをますます愛おしく思わせる。
小さな声で囁いた。
「……こういうことをしない人なのかと思ってた」
「どうして?」
「んー 今まで何もしてこなかったし」
「見ず知らずのヤツに手を出したりしないよね。普通」
言われてみれば至極もっともだ。裏を返せば今では距離が縮まり 互いが互いの疑似恋愛の対象に収まったと言える。
口元で微笑んだ後 美結は両手を膝の上に置く。そして再び目を瞑った。
唇が触れる、それが離されまた触れる。撫でるようなキスを繰り返した。
美結自身なのかイルミなのか、ふわりと香る酒の匂いに酔わされ 思考がとろとろ崩れ出してくる。溶け合うような感覚を伴う、こんなにも心地いいキスは久しぶりだ。
無意識に、膝に預けていた両手が イルミの肩に伸びる。
「ん、……っ」
後ろから 頭を緩く引かれた。
微かに開く唇に抵抗力がある訳もなく、隙間から侵入してくるイルミの舌を簡単に受け入れてしまう。
柔らかい刺激を植え付けられ 口内を優しく犯されてゆく。
少しづつそれに応えてみれば 互いの暖かい舌先がとろりと混ざり合ってゆく。身体の芯がジンと熱くなる。