第4章 デートの木曜日
イルミは一歩でソファへ近付き、直線に伸びた背を屈めてくる。
手首を軽く掴まれただけなのに 身の重みを忘れる程、ふわりと身体が起こされた。少し距離が近付く。
「今日は楽しかったなぁ」
「そう。よかったね」
「イルミは?」
「んー フグって魚と酒はうまかった」
「そっか。イルミもよかったね」
あとひとつ、イルミに近付くにはどうしたら良いのだろうか。
そんな甘えた願いを込めて、真剣な表情を添えて。美結はイルミを見つめた。
いつも不動の雰囲気を崩さぬイルミの片手に目が吸い寄せられた。
伸びてくる指先の動きは実に不思議で、一切の質量がないみたいだった。ゆったり優雅であるのに 絶対的な圧力が放たれて見える。
いよいよイルミが触れてくる。
曲線を描く美結の輪郭を滑り、小さな顎先まで到達する。柔らかくひと撫でしてくれた手は 俄かに美結との距離を取る。
「こうして見ると丸いね。顔」
「………気にしてるのに」
普段はなるべくフェイスラインを隠すよう、髪を内巻きにしているから目立たないだけで。今は上を向くような格好で見下ろされているから 余計にそれが目立つのだろう。
大きな掌が後頭部に回った。