第4章 デートの木曜日
「……最初は正直何コイツって思ったけど。今はイルミと一緒にいるの結構楽しいよ」
「変わってるね」
「そうかな?」
「オレは家や仕事のことしか考えた事がないし、他人を喜ばせるなんて発想すらないのに」
「も〜自信持って?私ちゃんと楽しいし喜んでるもん」
「やっぱり呑気だよねミユは」
「今ではそれも褒め言葉なのかなぁーって思ってるけど?」
イルミは 下から覗き込んでくる美結を見下ろした。
一体いつまでこの手の話題を引っ張るのだろうか。
アルコールのせいなのか潤む美結の瞳は夜景を反射し 何かを期待するように見える。
美結のように柔らかい雰囲気を持ち、少女さながらに恋愛ごっこをしたがる人物は周りにいるわけもなく。ぬるま湯同然のここでの暮らしは 培ってきた日常の感覚をひどく鈍らせる、そう思えてならなかった。
「……ねぇイルミは?私と一緒にいるの楽しくない?」
「なんていうか、平和ボケしそう。ミユといると」
「あはは そっかぁ。でもいいんじゃない?普段はイルミも忙しいんでしょ?私といる間くらいは羽伸ばしても」
美結は踵を上げる。
片手を伸ばし届く範囲で無理矢理イルミの頭を撫でた。初めて触れる髪は見た目よりも柔らかく、素直に美結の手に従ってくれる。
「いつもお仕事ご苦労様」
拒否されるのも覚悟だったが振り払われることはなかった。イルミはじっと、美結の動作を観察し続けている。
「恋人がいるっていうのはこういう感覚?」
「多分ね。当たらずしも遠からずだと思う」