第4章 デートの木曜日
時間も遅く平日である事も重なり利用客は数えられる程度であった。
並びもせずにチケットを購入し、急速上昇をするエレベーターに乗る。
展望室に到着すれば視界の限りに飛び込んでくるのは想像通りの夜景であった。東京を一望出来るその光景は 目を見張る迫力がある。
まるで異空間だ、自然に口が開き感嘆の息が漏れた。
「…………すごいね。」
「こういう景色はオレの世界と変わらないな」
美結の視線はすぐに隣のイルミに引き寄せられる。
しばらくは気付かぬフリを決め込むよう、前を向いていたイルミが 一瞬だけ美結に横目を向ける。
「どこ見てるの?」
「イルミ」
「夜景を見にきたんじゃないの?」
「……その筈なんだけどね」
雰囲気はそれなりだ。
イルミの態度や言葉から 正確に読み取るのは難しいが 感触自体は悪くない。美結の今までの経験からそれは理解出来る。美結は声のトーンを落とした。
「……イルミは恋人いないの?」
「いないよ」
「即答だね」
「ミユだっていないよね」
「……まあね」
心の中では“いない理由”は同じではないと思う。
作ろうと思えばすぐに出来る美結に対し、イルミにはそもそも恋愛に興味がないように見える。
美結は再び 静かな声を出す。
「……彼女 欲しいとも思わないの?」
「思わない」
「また即答かぁ イルミらしいけど」
「稼業以外の事は考える必要がない。そういう環境で生きてる」
「…シビアだね…」
「それがオレにとっての日常だから」
イルミは依然として 煌めく夜を見つめたままだった。
ほんの少し欲を出してくれれば、ただの同居人を越え 男女としての一歩へ踏み込む事が容易い状況であるのに。
固い表情を崩さぬイルミにとっては、美しい夜景も隣の美結も ただの“稼業以外”として一色担なのだろう。
美結が黙ると、2人の間はすぐに無言に落ちてしまう。