第4章 デートの木曜日
美結の向かいでお猪口を傾けるイルミの姿は あまり違和感がない。
まるでオフを利用し突発的に温泉旅館を訪れ、贅沢な夕食をたしなんでいるみたいだ。
「どうかした?」
「いや………今日は私がおもてなししてあげようと思ってたのに、まさかご馳走になってしまうとは、と思って…」
金に綺麗汚いがあると真っ向から正義をかざす気はないし、他人の好意には甘えるべきだとは思う。
しかし いつの間にか美結よりも自然にフグ刺しをつまんでいるイルミを見ていると、さすがに不思議な気持ちになった。
上目遣いで問い掛けてみる。
「……どうですか?お味は」
「美味しいよ」
美結も箸を取る。
菊状に並べられた薄い刺身を口に運んだ。
出てくるのは自然な感想で 口元が緩んでしまう、思わず頬に手を添えた。
「……ん~おいしい!」
「うん」
「デートっぽく夜景の綺麗な所でワイングラスで乾杯なんていいかなぁーと思ってたけど。お座敷に熱燗ていうのもいいね」
「ザシキっていうの?ウチにもこういうジャポン式の似た部屋があるけど」
「そうなんだ。落ち着くよね」
「旨いね この酒」
美結の側にあったはずの徳利はいつの間にかイルミの手の中だ。イルミは手酌で飲み進めていた。